こんにちは、春日井コワーキングスペースRoom8オーナーの鶴田です。
最近では名古屋・春日井を中心に、生成AIをどう使いこなすかという相談にも乗ることが増えてきました。が──
毎度のように出てくるのがこの質問。
「ChatGPTって、情報が漏れるって本当ですか?」
はい、出ました。ChatGPT都市伝説2025年版。
しかもこの質問、「なんか怖いんですけど……」という、根拠のない空気感とセットで語られることが多い。
でもね、これ、ちゃんと分解して考えれば、
“どこまでが本当にリスクで、どこからが思考停止か”が明確になります。
情報漏洩といっても、ひとつじゃない。
今回は生成AIの情報リスクを、3つのタイプに分けて整理してみます。
この記事を読み終わる頃には、
「ChatGPT=怖いから触らない」という考えが、どれだけもったいないかが見えてくるはずです。
それでは、いってみましょう。
時間が無い人向けの、音声概要はこちら!
これはChatGPTのせいじゃない:クラウドに乗せた時点での“当たり前リスク”

まず最初にハッキリさせておきたいことがあります。
それは──
「ChatGPTって、情報が漏れるんでしょ?」
という話の8割くらいが、ChatGPTの問題じゃないということです。
生成AIを“特別に危険なもの”扱いしてませんか?
よくあるのが、「クラウドの仕組み」と「AIの仕組み」が頭の中でゴッチャになっていて、
「なんかAIって勝手に記憶してそう」「どこかに全部送られてそう」といった“雰囲気リスク”で怖がってしまうパターン。
でもちょっと待って。
- Googleドライブに請求書アップしてる
- iCloudに子どもの写真入ってる
- Amazonにクレカ登録してる
- LINEで社内のやり取りしてる
- ついでにSlackもZoomもDropboxも使ってる
……ですよね?
それ、ぜんぶクラウドです。
そして、そのどれもが「情報漏洩リスクゼロです!」なんて一言も言ってません。
ChatGPTも、仕組み上はただのクラウドサービスの一種です。
つまり、他のクラウドと同様に、通信中や保存中のデータが何らかの理由で漏れる可能性は、理論上はゼロじゃない。でもそれって、「インターネットを使う時点での共通前提」です。
セキュリティ意識が高いのはいい。でも…
「ChatGPTだけ使うのは危ない」と言っておいて、
・Gmailで請求書を送って
・Googleスプレッドシートで顧客管理して
・LINEで営業戦略の話してる
──この状態の人、多いです。
つまり、ChatGPTだけ名指しで危険視する理由が構造的に存在していないんですよね。
AIが危ないんじゃない、“クラウドに情報を預ける”という行為自体に一定のリスクがある。
それはChatGPTに限った話じゃなく、もはや現代の標準仕様です。
本当に問うべきは「どのリスクを許容して、どこを工夫するか」
セキュリティ意識を持つのは良いことです。
でも、それが「なんとなく怖いから使わない」という感情ベースになると、
本来業務をラクにするはずのツールを、自分で拒否することになります。
そして何より、「AIは怖いけど、他は大丈夫」みたいな根拠のないバイアスが、情報リテラシーを鈍らせる一番の要因です。
ChatGPTは特別危険なツールではありません。
クラウドを使う以上、一定の漏洩リスクは存在しますが、それは他のすべてのオンラインサービスも同じこと。
つまりここで言いたいのはこういうことです:
「クラウドの基本構造を理解していないまま、生成AIだけを危険視してませんか?」
一歩引いて見れば、「AIは怖い」という感情は、
ただ単に“わかってないことに対する反射的な恐怖”かもしれません。
学習されることで将来の出力に使われるリスク

ここからが、生成AIならではの話です。
いわゆる「ChatGPTに情報を入れたら、それが誰かの画面に出てくるかもしれない」というやつ。
これはさすがにGoogleドライブやDropboxとは違います。
ただ、ここもちゃんと構造で考えれば、
「何が学習されるのか?」「どこからが本当に危ないのか?」が見えてきます。
学習されるかどうかは“設定次第”
ChatGPTの無料版や通常のWebチャットでは、チャット履歴がオンになっている限り、
その内容が将来的にモデルの学習に使われる可能性があります。
逆に言えば、履歴をオフにすれば、基本的に学習には使われません。
さらに言えば、OpenAIのAPIやChatGPTのエンタープライズ版では、最初から「学習には使いません」という契約のもとに動いています。
つまり、まず第一に重要なのは、どの設定・どの利用形態で使っているかです。
でも何が学習されるのか?──“意味を持つ文章”が鍵になる
ここでよくある誤解が、
「じゃあ個人情報が全部学習されちゃうんですか?」
というやつ。
答えは “学習されにくいです”。
というのも、AIは文章を意味単位で処理しており、以下のような情報はそもそも「意味がない」と判断されやすい。
- クレジットカード番号
- 電話番号
- APIキー
- ランダムな英数字の羅列
また、OpenAIなどのプロバイダーは、こうした情報を意図的に除外する技術的なフィルタもかけています。
さらに、氏名や住所のような情報についても、一般的な名前や地域名であれば、AIにとっては“それ単体では意味を持たないデータ”でしかありません。
問題は、“意味を持った文章”です
一方で、AIが「これは他の人にも役立ちそう」と判断するのが、以下のような情報:
- 何かを実現するための手順やプロセス
- 独自のノウハウやメソッドの説明
- 具体的な社内の業務マニュアルに近い記述
たとえば、「営業メールの成約率を3倍にするための5ステップ」みたいな情報は、
構造があり、意味が通り、他者にも応用可能──つまり、学習されやすい。
そして一度学習された情報は、あとから「それ消して」は基本できません。
ここが最大の問題。
不可逆性です。
ここで強調しておきたいのは、
多くの人が「情報漏洩」と聞くと、顧客リストや個人情報のような“わかりやすいデータ”を思い浮かべがちだということです。
でも、実は一番気をつけるべきなのは、自社独自の業務ノウハウや手順、社内でしか使っていないメソッドのような“意味のある文章”です。
こうした情報は、AIにとって「他の人にも有用な知識」として認識され、
学習されやすく、将来の出力に影響を与える可能性があります。
つまり、「数字や名前」ではなく、「構造化された知識」がAI時代の新しい“情報漏洩対象”になるということ。
ここに気づかず、「個人情報は入れてませんから大丈夫ですよね」と言っていると、
本丸を素通りしてるかもしれません。
サムスンの事例:何が問題だったのか?
よく取り上げられるのが、サムスンが社内でChatGPTの使用を禁止したという話。
「やっぱり危ないんだ!」と思った方、ちょっと待ってください。
サムスンの問題は、ChatGPTに機密情報が入力されたことそのものではありません。
それが学習されてしまった可能性がある=もう取り戻せないという点にあります。
「漏れた」かどうかではなく、
“誰かに見られたことを確認できないまま、未来永劫モデルに残るかもしれない”という性質が問題なんです。
学習リスクを防ぐには
- チャット履歴は原則オフ
- API版や法人契約プランの利用を検討
- 「これは学習されるとまずいか?」と感じたら、その情報は入れない
そして何より、「この情報ってAIにとって“意味がある文章”として成立してるか?」という観点で判断すること。
形式ではなく、意味でリスクを考える。
これが、生成AI時代の情報リテラシーです。
それ、ミスじゃなくて仕様です:チャット内の文脈による“混入”

ChatGPTを使っていて、こんな経験はありませんか?
- Aさん宛の請求書を作らせたあとに、
- 同じチャットでBさん宛の見積書を依頼したら、
- なぜかBさんの書類にAさんの名前や金額が混ざってくる──
これ、AIの側では“情報漏洩”とは扱われません。
単に「直前の文脈を前提として、賢く生成しようとしただけ」です。
でも、それを人間が確認せずにそのまま送ってしまったら?
立派な“情報漏洩”になります。
つまり、リスクの原因はAIではなく、チェックを省いた人間の側にある。
ここを勘違いすると、「AIが勝手にやらかした」みたいな話になってしまいますが、
実態は“確認しなかったから起こった”ヒューマンエラーなんです。
この“混入”自体は、AIの仕様通りの挙動です。
でもそれを「生成されたから大丈夫だろう」と鵜呑みにしてコピペ送信すると──
その瞬間に、漏洩事故が発生します。
AIの出力には、意図していない情報が含まれている前提で確認する。
これが、AIを業務に使う最低限のマナーであり、リテラシーです。
AIは“会話の流れを踏まえて生成する”ようにできている
ChatGPTのような生成AIは、そのチャットの流れを全部踏まえた上で、最も文脈に沿った出力をしようとします。
だから、AさんとBさんの依頼を**“同じ会話の中で続けて出した”時点で、AIはこう考えるんです:
「このふたり、きっと関係あるんだろうな」
「前の情報も踏まえた方が、親切だよね」
「まかせて!脈絡を感じさせる自然な文面、つくっといたよ!」
……結果、Bさんの見積書にAさんの情報が混入します。
メタ情報も混ざる
さらに怖いのが、指示文に含めた“前提情報”がそのまま出力に含まれてしまうケース。
たとえば:
「佐藤さんは神経質なので、やわらかい口調でメールを書いて」
→
「佐藤さんの性格に配慮し〜」みたいな文言が本文に含まれる
うん、余計なことは言わなくていい。
これ、AI的には“あなたの意図を忠実に再現した”というつもりなんですよ。
でも、人間側からすると「いや、それ本文に書いちゃだめなやつでしょ」となる。
じゃあどうすれば?
この“混入”は、再学習とは無関係です。
AIはただ、同じチャットの中で“前の情報を前提として記憶している”だけ。
だからこそ対策はシンプル。
- 案件ごとにチャットを分ける
- 人名や金額など、前の情報が出てきそうなときはリセットする(/new chat など)
- 出力は、「妙な親切心が働いてないか?」の目でチェックする
ミスではなく、親切心による事故
このリスクは、技術的に防げるものではありません。
AIは常に“良かれと思って”文脈を拾ってきます。
だからこそ、人間の側が“チェックする前提”で使う必要がある。
仕様を知らないと、事故に見える。
仕様を理解すれば、「ああ、そう来たか。なら分けて使おう」と判断できる。
これはAIの“おせっかい力”との付き合い方の問題なんです。
まとめ:“AIは危ない”をやめて、“何がどう危ないのか”で考える

ChatGPTをはじめとした生成AIに対して、
「なんとなく怖い」「情報が漏れそう」という声は今も根強くあります。
でも、その不安をちゃんと分解してみれば──
リスクは3つに分類でき、それぞれに向き合い方があるということが見えてきます。
✅ 1. クラウドサービスとしての一般的な漏洩リスク
- サーバーへの不正アクセスやバグによる流出リスクは、ChatGPTに限らずどのクラウドでも共通
- 特別視する必要はないが、「ゼロではない」という前提で使う
✅ 2. 学習されることで、将来的に出力に混ざるリスク
- チャット履歴がオンのままだと、入力内容がAIの学習に使われる可能性がある
- 特に「意味を持った文章」──ノウハウ、手順、業務マニュアルなどが対象になりやすい
- 一度学習されると取り消せない(不可逆)
- 回避策:チャット履歴OFF、API利用、入力内容の選別
✅ 3. 同じチャット内で、前の情報が混入するリスク
- これは学習ではなく“文脈処理”による仕様どおりの挙動
- 生成された文に、前の情報や指示の前提が混ざってくることがある
- 目視せずに送ると、それは人間の手による“情報漏洩”になる
- 対策:チャットを分ける、確認を怠らない
AIに責任を押し付ける前に、“自分が分かってるか”を問い直す
AIはどこまでも、与えられた情報で“それっぽい答え”を返すツールです。
だからこそ、「意図しない答え」が出る可能性を踏まえて使うのが前提。
それを怠って、
「AIが間違えた」「勝手に混入した」「学習されて困った」と後から言うのは、
ナイフで手を切って“包丁が悪い”と言ってるのと同じ構造です。
怖がるより、知って使え
リスクはあります。でも、構造を理解して対処すれば、多くは防げる。
逆に、何となく怖いからといって使わないことこそが、この時代における最大のリスクかもしれません。
ChatGPTは万能ではありません。
でも、「何が危険か」を正しく理解して使える人にとっては、
とてつもなく強力なパートナーになります。
──使いこなすか。怖がって遠ざかるか。
それは、AIの問題ではなく、“使う側の問題”です。