こんにちは、春日井コワーキングスペースRoom8オーナーの鶴田です!
前回の記事「ドラッカーが現代の起業家に教えたいこと」では、ドラッカーの経営哲学を起業の文脈で解説しましたが、今回はその続編として、もう少し踏み込んだ話をしていきます。
最近Room8で起業相談を受けていると、本当に多いんですよ。「僕のビジネスアイデアは革新的で、市場規模も大きくて、絶対成功します!」みたいな相談が。で、詳しく聞いてみると、やりたいことが10個も20個もあって、ターゲットは「みんな」で、自分の強みは「情熱」だと。
もしドラッカー先生が生きていたら、こういう起業希望者たちに何を言うでしょうか。きっと優しい笑顔で、でも的確に核心を突いてくるはずです。
今日は特に重要な3つのポイントに絞って話していきます:
- 「何をやるか」より「何をやらないか」
- 市場ではなく顧客を見よ
- 強みより弱みを知れ
どれも一見当たり前のことですが、実際にできている起業家はほとんどいません。なぜなら、これらは「気持ちいい話」ではないからです。
「何をやるか」より「何をやらないか」

起業家の「全部やりたい症候群」という病気
僕がRoom8で起業相談を受けていて一番困るのが、この「全部やりたい症候群」の人たちです。
「うちのアプリはSNS機能もあって、ECもできて、マッチングもできて、AIチャットボットも搭載予定で…」って、もうお腹いっぱいです。聞いてるこっちが疲れる。
…って偉そうに言ってますが、実は僕も昔は完全にこのタイプでした。「物販で成功してる人がいる」「NFTで儲けた人が」「仮想通貨で億り人になった人が」…そんな話を聞くたびに「僕もあれやろうかな」って考えてました。今思い返すと恥ずかしい。
ドラッカーは「集中こそが成果をもたらす唯一の鍵である」と言いました。でも起業家って、なぜか「手を広げれば広げるほど稼げる」と勘違いしがちなんですよね。僕もその一人でした。
ドラッカーの「集中」が意味すること
ドラッカーが言う集中とは、単に「一つのことだけやる」という意味ではありません。「最も重要なことに資源を集中する」ということです。
Room8の場合、コワーキングスペースを軸に、シェアオフィス、レンタル会議室、コンサル事業を展開していますが、これらは全て「同じ空間・同じ顧客基盤・同じスキルセット」を活用した自然な拡張です。
良い拡張(Room8の例):
- コワーキングスペース(コア)
- シェアオフィス(同じ空間、利用形態が違うだけ)
- レンタル会議室(既存空間の時間貸し)
- コンサル(既存顧客への付加価値)
悪い拡張(誘惑に負けた例):
- コワーキング運営
- 物販事業(Amazon転売)
- 飲食店経営
- 仮想通貨トレード
後者は全く違うスキルセット、違う顧客、違うオペレーションが必要です。
「やらないこと」を決める勇気
これ、本当に勇気がいるんです。なぜなら「やらない」と決めることは、儲けのチャンスを逃すことのように感じるから。
でも実際は逆なんですよね。やらないことを明確にするほど、やることの精度が上がります。ドラッカーも「何をしないかを決めることは、何をするかを決めることと同じくらい重要である」と述べています。
さらにドラッカーはこうも言いました:「多角化は成長の結果であって、成長の原因ではない」
つまり、大企業が多角経営できるのは、既に確固たる基盤とリソースがあるからです。中小企業や個人起業家が真似をしても、リソースが分散して全てが中途半端になるだけ。
僕自身、Room8を運営していく中で何度も「あれもやりたい、これもやりたい」という誘惑に駆られました。でも結局、コワーキングスペースとしての本質に集中することで、今の形になっています。
起業相談でお話しする方々にも、「一度全部書き出してから、本当に必要なものだけ残してみてください」とお伝えすることがあります。最初は「えー、でも稼げそうで…」と言われますが、整理してもらうと表情がスッキリされることが多いですね。
市場ではなく顧客を見よ

「市場規模○億円!」に踊らされる起業家たち
Room8での起業相談で、もう聞き飽きたフレーズがあります。
「僕がターゲットにしている市場は○○億円規模で、そのうち1%でも取れれば…」
はい、ストップ。その時点で、あなたは顧客のことを何も考えていません。
市場規模って、確かに投資家向けの資料では必要かもしれません。でも実際にビジネスを始める時に重要なのは「誰が、なぜ、あなたの商品にお金を払うのか」です。ドラッカーも「企業の目的は顧客の創造である」と明言しています。
ドラッカーの顧客創造論の本質
ドラッカーが言う「顧客の創造」とは、単に「お客さんを見つけること」ではありません。「顧客自身が気づいていないニーズを発見し、それに応える価値を提供すること」です。
Room8を例に取ると、春日井で「コワーキングスペースが欲しい」と明確に思っていた人はほとんどいませんでした。でも実際には:
- 自宅では集中できないフリーランス
- カフェで仕事するのに気を遣うリモートワーカー
- 起業の相談相手が欲しい個人事業主
- 同じような境遇の人とつながりたい在宅ワーカー
こういう人たちがいて、その人たちの「潜在的な困りごと」に応えたから、今のRoom8があります。
「お金持ち狙えば儲かる」という微妙な勘違い
高価な商品を扱っている方がよく言うのですが、「お金持ちの人いないですか?」って。。。
確かに、高価な商品を買う人はお金を持っている人が多いです。でも「お金持ちだから買う」わけではないんですよね。
お金持ちというのは「買える財力がある」というだけです。逆に、お金持ちじゃなくても「それが是が非でも手に入れたい」と思っていたら、無理をしてでも買えるんです。
例えば、僕はお金持ちじゃありませんが、もし「これをRoom8に飾ると、それを目当てにひっきりなしに客が集まって儲かる」という確実なエビデンスがある商品があれば、借金してでも買いますよ。なぜなら、それは僕にとって「絶対に解決したい問題」だからです。
間違った思考:
お金持ち → だから高い商品を買う
正しい思考:
その商品で解決される問題に困っている → だから高いお金を払ってでも買う → 結果的にその人はお金を持っていた(or 無理してでも調達した)
つまり、探すべきは「お金持ち」ではなく「あなたの商品で解決される問題に本気で困っている人」なんです。
ペルソナ設定の罠と真の顧客理解
最近の起業家は「ペルソナ設定」が大好きです。「30代男性、年収600万、趣味はゴルフ…」みたいな。
これ自体は悪くないんです。でも、多くの人が属性だけで終わってしまう。重要なのは、その属性の人たちが「どんな状況で、どんな感情を抱えているか」まで掘り下げることです。
知り合いで郡上でラフティングなどアウトドアサービスを展開している事業者がいるんですが、彼は「小学生以下のお子さんを持つファミリー層」と「若者グループ」を完全に分けて営業しています。
なぜなら、混在した状況だとお互いに気を遣ってしまうから。ファミリー層は「周りに気を遣わずに、思いっきり家族時間を楽しみたい」という願望がある。でも若者グループが一緒だと、子供の声や行動を気にして「子供に我慢を強いる」ことになってしまう。
逆に若者グループ、特にカップルなんかも、小学生がいると気を遣って思いっきり楽しめない。
だから、時間を分けてそれぞれのグループが「周りを気にせず思いっきり楽しめる」環境を作っている。これが真の顧客理解です。
「30代夫婦、子供2人」という属性だけでなく、「気兼ねなく家族時間を満喫したい」という状況と感情まで理解している。
Room8を利用する人たちも:
- 年齢も職業もバラバラ
- でも共通しているのは「一人で仕事することの限界を感じている」という状況
- 「誰かと一緒に頑張りたい」という感情
ドラッカーも「顧客が買っているのは商品ではなく、満足である」と言いました。つまり、顧客の属性だけでなく、その奥にある「困りごと」や「願望」を理解することが重要なんです。
「誰の何の問題を解決するのか」の具体化
起業相談でよく出てくるのが「みんなが使えるアプリを作りたい」という人たち。
みんなって誰ですか?
具体的に聞いてみると「老若男女問わず…」とか言い始める。
確かに、人類が普遍的に抱えている課題というのは存在します。でも、そんな課題はめったにないし、あったとしても同じ手法では解決できないことがほとんどです。
例えば「コミュニケーション」という課題は老若男女共通ですが、10代の学生が抱える「友達とのLINEのやり取りが面倒」という問題と、60代の経営者が抱える「部下との意思疎通がうまくいかない」という問題は、全く違うアプローチが必要ですよね。
結局「老若男女問わず」と言っている人は、実は「誰のことも具体的に考えていない」のと同じなんです。
ドラッカーは「すべての人のための製品は、結局誰のためにもならない」と警告していました。
Room8の場合、最初から「春日井近辺で、一人で仕事をしていて、でも誰かとつながりたいと思っている人」に絞りました。すごく狭いターゲットですが、だからこそ刺さったんです。
起業したいなら、まず「たった一人の困っている人」を思い浮かべてください。その人が夜中に「あー、こんなサービスがあったらなぁ」とため息をついている場面を具体的に想像できますか?
それができなければ、どんなに立派な市場分析をしても意味がありません。
機会に集中せよ、問題ではなく

起業家の「問題発見病」という罠
Room8で起業相談をしていると、面白いことに気づきます。起業家の多くは「問題解決」が大好きなんです。
「この業界にはこんな問題があって…」
「ユーザーはこんなことで困っていて…」
「既存のサービスにはこんな欠点があって…」
確かに問題を見つけるのは大事です。でも、そこで止まってしまう人がすごく多い。
ドラッカーは『イノベーションと起業家精神』でこう言いました:「起業家は問題ではなく、機会に焦点を合わせる」
問題を見つけることと、機会を掴むことは全く違うんです。
ドラッカーの「機会」が意味すること
多くの人が勘違いしているのは、ドラッカーが言う「機会」とは「ラッキーなチャンス」のことではないということです。
ドラッカーの言う機会とは:
- 変化によって生まれる新しい可能性
- まだ誰も気づいていない、または手をつけていない領域
- 既存の資源や技術で解決できる範囲の課題
つまり、偶然の産物ではなく、観察と分析によって発見できるものなんです。
問題解決と機会創造の決定的な違い
問題解決型のアプローチ:
- 既存の不満を解消する
- 現状をちょっと良くする
- 競合他社との差別化が難しい
- 「改善」レベルの変化
機会創造型のアプローチ:
- 新しい価値を生み出す
- 今まで存在しなかった満足を提供する
- 独自のポジションを築ける
- 「革新」レベルの変化
先日、僕が体験した典型的な事例を紹介します。
税理士事務所のAI導入相談を受けた時のことです。一緒に打ち合わせをしていた人は「税理士事務所にAIを導入する」という発想しかありませんでした。
でも僕は違うことを考えました。
普通の人の思考(問題解決型):
税理士事務所がAIで困ってる → 税理士事務所にAI導入しよう
僕の思考(機会創造型):
その税理士事務所のコンセプトは「クライアントの会社に少しでもお金を残すこと」 → じゃあ僕がそのクライアント企業の業務効率化を直接手伝えば、税理士事務所の価値向上にも貢献できる → Win-Win-Winの関係が作れる
機会発見の具体的プロセス
この事例で、どうやって機会を発見したかを整理してみます。
ステップ1:本質的な価値を見抜く
- 表面的な依頼:「税理士事務所のAI導入」
- 本質的な価値:「クライアント企業の利益向上」
ステップ2:空白地帯を発見する
- 税理士事務所は「クライアントの利益向上」を価値にしている
- でも税理士事務所自体は業務効率化の専門家ではない
- そこに僕のAIスキルが入り込める余地がある
ステップ3:三方良しの関係を設計する
- 税理士事務所: クライアントへの付加価値が増える
- クライアント企業: 業務効率化でコスト削減
- 僕: 新しい顧客獲得ルート
結果として「税理士事務所経由のAI業務効率化コンサル」という、誰もやっていない新しいポジションを発見できました。
変化を機会に変える具体的な方法
ドラッカーは「変化は機会の源泉である」と言いました。では、どうやって変化を機会に変えるのか?
ステップ1:身の回りの変化を観察する
- 技術の変化(AI、DXなど)
- 人口構成の変化(高齢化、リモートワークなど)
- 価値観の変化(環境意識、働き方など)
- 法制度の変化(規制緩和、新しい制度など)
ステップ2:「まだ誰もやってない」を探す
- 大企業が参入しない理由を考える
- 既存業者が手をつけない理由を分析する
- その理由が「市場が小さい」なら、個人事業主には十分かも
ステップ3:自分の資源で解決できるかチェック
- 今の知識・スキルで対応できるか?
- 初期投資はどれくらい必要か?
- 失敗した時のダメージは許容範囲か?
税理士事務所の事例では:
- AI技術の普及とDXの需要拡大(変化)
- でも「税理士事務所経由のAIコンサル」は誰もやってない(空白地帯)
- AIスキルと既存の信頼関係で解決可能(資源チェック)
この3つが揃った時、「問題」が「機会」に変わったんです。
機会を見つけるのが上手い人の特徴
起業相談をしていて気づいたのは、機会を見つけるのが上手い人と下手な人の違いです。
機会を見つけるのが下手な人:
- 「競合が多い = 需要がある」と考える
- 既存市場の奪い合いを狙う
- 「もっと安く」「もっと便利に」しか考えない
機会を見つけるのが上手い人:
- 「なぜこの分野に誰も参入しないんだろう?」と考える
- 変化の兆しを敏感に察知する
- 「今までなかった組み合わせ」を探す
起業したいなら、まず問題探しをやめて、変化探しを始めてください。そして「なぜ誰もやらないんだろう?」を考える癖をつけてください。
そこに本当の機会が隠れています。
まとめ

今日の3つのポイントを振り返る
ドラッカーが起業希望者に本当に伝えたかったであろう3つのポイントを見てきました。
「何をやるか」より「何をやらないか」
多角化は成長の結果であって、成長の原因ではない。コアとなる強みに集中し、誘惑に負けて手を広げることの危険性を理解する。
市場ではなく顧客を見よ
お金持ちだから買うのではなく、本気で困っているから買う。属性ではなく状況と感情を理解し、たった一人の困っている人を具体的に想像できるかが勝負。
機会に集中せよ、問題ではなく
問題解決は改善レベル、機会創造は革新レベル。変化を観察し、空白地帯を発見し、自分の資源で解決できる領域で勝負する。
ドラッカーが教える起業家の本質
これら3つに共通するのは、ドラッカーが一貫して主張していた「現実を冷静に見つめる」ということです。
起業家に必要なのは:
- 夢や情熱だけではなく、冷静な分析力
- アイデアの斬新さではなく、顧客への価値提供
- 大きな野望ではなく、小さく確実な成功の積み重ね
僕がRoom8を運営し、AIコンサルを展開し、Web制作事業を始められたのも、すべてドラッカーのこの教えがベースにあります。
起業を考えているあなたへ
もしあなたが起業を考えているなら、まずこの3つを自問してみてください:
- 集中できていますか?
「あれもこれも」ではなく、本当に重要な一つのことに資源を集中できていますか? - 顧客が見えていますか?
市場規模ではなく、夜中に「こんなサービスがあったらなぁ」とため息をついている具体的な一人の顔が浮かびますか? - 機会を掴んでいますか?
既存の問題を解決するのではなく、変化によって生まれた新しい可能性に挑戦していますか?
この3つがクリアできているなら、あなたの起業は成功する確率が高いはずです。
最後に
ドラッカーは起業を煽るような甘いことは言いません。でも、現実を正しく理解して行動すれば、必ず道は開けるということを教えてくれます。
「企業の目的は顧客の創造である」
この言葉の本当の意味を理解した時、あなたの起業家としての第一歩が始まります。
次回は、ドラッカーの別の側面から起業について語る予定です。引き続き、Room8ブログをお読みください。
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