こんにちは、春日井コワーキングスペースRoom8オーナーの鶴田です!
コワーキングスペースをやってると、ちょいちょい起業相談を受けるんですが、みんな判で押したように同じこと言うんですよ。
「素晴らしいアイデアがあるんです!」「この技術は革新的で!」「絶対売れます!」
で、なぜかその根拠として、必ずと言っていいほどドラッカーの名前を出してくる。「顧客の創造が大事って言ってるじゃないですか!」「イノベーションこそが企業の使命だって!」って。
いや、確かにドラッカーはそう言ってるよ。でも君たち、その意味を根本的に勘違いしてない?
ドラッカーの理論って、起業を煽るためのものじゃないんですよ。むしろ現実を冷静に見つめて、地に足の着いたビジネスを作るためのもの。でも起業希望者の多くは、都合の良い部分だけ切り取って「俺の起業は正しい!」という確証バイアスの材料にしてる。
これ、本当にもったいない。ドラッカーを正しく理解すれば、無駄な失敗を避けて、もっと現実的で成功確率の高い起業ができるのに。
今日は経営学の父・ドラッカーが泣いてるであろう、起業希望者の典型的な勘違いパターンを3つ、愛を込めてツッコんでいきます。シリーズ第1回、スタートです。
勘違い① 「良い商品を作れば売れる」という思い込み

ドラッカーが本当に言いたかったこと
「企業の目的は顧客の創造である」
これ、ドラッカーの最も有名な言葉の一つですね。でも起業希望者の9割は、この意味を完全に取り違えてる。
「良い商品を作る → 顧客が生まれる → 売れる」
違います。順番が逆なんです。
正しくは「顧客を理解する → 顧客の問題を発見する → その解決策として商品を作る」。
技術の凄さと市場成功は別物
セグウェイを覚えてますか?2001年に登場した時、「移動革命」とまで言われた画期的な乗り物。技術的には間違いなく凄かった。でも結果は?普及せずに事業売却。
一方でiPhone。2007年登場時点では、技術的には既存技術の組み合わせでしかなかった。タッチパネルもカメラ付き携帯も音楽プレイヤーも、全部既にあったもの。
違いは何か?
セグウェイ:「凄い技術だから誰かが使うだろう」
iPhone:「こんな体験を求めている人がいるはず」
AppleはiPhone開発前に、「ポケットに入る小さなコンピューターが欲しい人」という明確な顧客像を描いていた。技術ありきじゃなく、顧客ありき。
起業希望者あるあるパターン
Room8でよく聞くのがこんな話:
「AIを使った○○システムを開発しました!従来の10倍高速で処理できます!」
僕:「で、誰が困ってるんですか?」
「え?いや、高速なのは良いことじゃないですか」
これが典型的な「商品志向」の罠。
良い商品は必要条件(当たり前)
良い商品だけでは十分条件じゃない(これを理解してない)
「誰にとって良いのか?」「なぜその人がお金を払うのか?」「他の選択肢と比べて何が優れているのか?」
この3つが答えられないなら、どんなに技術が凄くても売れません。断言します。
勘違い② 「イノベーション=画期的な発明」という幻想

ドラッカーのイノベーション定義を勘違いしてない?
「イノベーションとは新しい満足を生み出すこと」
これもドラッカーの有名な定義。でも起業希望者の多くは「イノベーション = 世界初の技術」だと思ってる。
違います。
イノベーションは「発明」じゃなくて「価値創造」なんです。既存のものを組み合わせて、新しい顧客満足を生み出せばそれもイノベーション。
地味だけど儲かるビジネスの方が多い現実
Uberって画期的な技術使ってましたっけ?
- GPS?既にあった
- スマホアプリ?既にあった
- 決済システム?既にあった
でも「タクシーを呼ぶ体験」を劇的に改善した。これが立派なイノベーション。
メルカリはどうです?
- ネットオークション?ヤフオクが先
- 個人間売買?既にあった
- スマホアプリ?当たり前
でも「誰でも簡単にモノを売れる体験」を作った。これもイノベーション。
起業希望者が陥りがちな「発明病」
危険パターン:「世界初の技術じゃないと意味がない」
正解パターン:「誰かの問題を解決できれば十分」
Room8でもよく聞きます:
「既にある技術の組み合わせじゃダメですよね?」
ダメじゃないです。むしろそっちの方が成功率高いです。
なぜなら:
- 技術リスクが低い
- 市場の反応を早く確認できる
- 資金調達しやすい
- 競合分析しやすい
Googleだって検索エンジン自体は既にあった。でも「関連性の高い結果を返す」という新しい満足を生み出した。それで世界を変えた。
技術の新しさより、顧客の満足度の新しさ。これがドラッカーの言うイノベーションです。
勘違い③ 「起業=自由」という甘い考え

ドラッカーが語る自由の本質
「自由には責任が伴う」
これもドラッカーが『マネジメント』で繰り返し強調していたこと。でも起業希望者の多くは「起業 = 上司がいない自由な生活」だと勘違いしてる。
現実を教えてあげましょう。
起業家ほど物理的に拘束された職業はありません。でも、それでも続けられる理由がある。
会社員と起業家、どっちが大変?
会社員の不自由:
- 上司に文句を言われる
- やりたくない仕事をやらされる
- 自分の判断で物事を決められない
起業家の不自由:
- 顧客に24時間365日縛られる
- 売上が上がらなければ食えない
- 全ての判断の責任を負わされる
ちなみに僕、年間の休みって多分5日くらいですよ?サラリーマンが「14連勤キツい」とか言ってるじゃないですか。僕は360日連勤です。
でも、なぜ続けられるのか?
「好きなことを仕事に」の本当の意味
起業希望者の幻想:「好きなことだから自由で楽しい」
起業家の現実:「24時間365日事業のことを考え続ける覚悟」
Room8でこんな相談もよくあります:
「ゲームが好きだからゲーム会社を作りたいんです!自由に好きなゲームを作って暮らしたい!」
僕:「成功するためには、他の人が休んでる間も行動し続ける覚悟ある?」
これが起業家の現実です。
僕だって、事業が軌道に乗るまでは土日も関係なく「どうすれば売上が上がるか?」を24時間365日考え続けてました。今でもそうです。
「量より質」なんて言う人もいるけど、質は圧倒的な量から生まれるんですよ。特に我々凡人は。
仕事自体は休みでも、頭の中は常に事業のこと。「土日は休みで毎日17時上がり」みたいな生活は、事業が軌道に乗るまでは当面無理。
で、軌道に乗って休みが増えたとしても…
子供を連れてディズニーランドに行っても、アトラクション乗りながら次の施策を考えてたりする。何ならディズニーに何か良い参考になるアイデア無いかを探してたり。
つまり、起業家の頭の中に「完全オフ」は存在しない。
まあ、睡眠時間等の健康面は気をつける必要はありますけどね。パフォーマンスも変わってくるので。
僕、20代の頃は大手IT企業でエンジニアしてて、その時は徹夜とかも普通にしてました。でも今は仕事のためにあえて6時間は寝ると決めてたりします。
つまり健康管理も仕事が中心。
「自分の体を大切に」じゃなくて「事業のパフォーマンスを上げるために体調管理」みたいな思考になってる。
サラリーマンなら「今日は疲れたから明日考えよう」って言えますが、起業家にはその余裕がない。なぜなら売上を上げなきゃ生きていけないから。この重い責任がのしかかってくる。
僕の友人でプログラマーから起業した人も同じでした。でも結果的に会社をたたんで、今は東南アジアでのんびり過ごしてます。
だったらどうすればいい?
起業する前に、まずこれを試してください:
- 圧倒的行動量を確保しろ
- 他の人が休んでる時間に差をつけろ
- 「忙しくて時間がない」は言い訳
- 本気なら時間は作れる、優先順位の問題
- 自分の強みを客観視しろ(顧客目線で)
- 好きなこと ≠ 得意なこと ≠ 儲かること
- この3つが重なる部分を冷静に分析しろ
- 重要なのは「顧客目線での強み」
- 実際にお金を払ってくれた人に「なぜ僕を選んだのか?」を聞け
- お金を払ったということは、必ずポジティブな理由があるはず
- 最悪のシナリオを想定しろ
- 1年間売上ゼロでも生きていけるか?
- 家族に迷惑をかけても続けられるか?
- 失敗した時の再就職プランはあるか?
起業に向いてる人、向いてない人
向いてない人:
- 「自由な時間が欲しい」(むしろ不自由になる)
- 「安定した収入が欲しい」(収入は不安定になる)
- 「人に認められたい」(最初は誰も評価してくれない)
向いてる人:
- 「問題解決が趣味レベルで好き」(ディズニーでも考えちゃう人)
- 「責任を取るのが苦にならない」(むしろやりがいを感じる)
- 「不確実性を楽しめる」(ギャンブルではなく計算された挑戦として)
もしあなたが後者なら、起業はおすすめです。前者なら、まずは副業から始めて、本当に自分が起業に向いてるか確認してください。
自分で選んだ道なら、どんなに大変でも納得できる。これが起業家の「心の自由」の正体です。
じゃあどうすればいいのか?(実践編)

ドラッカーが教える起業の正しい手順
散々ダメ出しをしてきましたが、じゃあどうすればいいのでしょうか?
ドラッカーの理論を正しく理解すれば、もっと現実的で成功確率の高い起業ができます。
ステップ1:まず「誰の」「何の問題を」解決するか明確にする
「企業の目的は顧客の創造である」
これの本当の意味は「お金になるのはお困り事の解消、これに尽きる」ということです。
間違った発想:
素晴らしい技術だから → お金になるはず
正しい発想:
お困り事を解消するから → お金になる
僕もAIコンサルをやっていますが、発想はいつも「この技術でどんなお困り事を解消できるか?」です。AIが素晴らしいからお金をもらえるわけじゃない。AIでお客さんの問題を解決できるからお金をもらえるんです。
具体例:組子細工を売りたい会員さんの場合
たとえば、Room8の会員さんで、国宝級の組子細工職人の知り合いがいる方がいらっしゃいます。その作品に魅了されて「これを事業にしたい!」と思った方です。技術や品質は本当に素晴らしい。
でも、その素晴らしさを「誰に」「どう伝えるか」で結果が大きく変わります。
従来のアプローチ:
商工会議所の商談会で「凄いんですよ、これ!見てくださいよ!」と技術の素晴らしさをアピール
顧客視点のアプローチ:
まず「和」を必要としている場所を考えてみる
- 犬山などの城下町: 「観光客のフォトスポット作りませんか?SNS映えで集客UPできますよ」
- 名古屋の高級料亭・旅館: 「外国人観光客に本物の和をアピールしませんか?」
- 京都の着物屋さん: 「着物の背景に組子を使った、とびきり映える写真サービスはいかがですか?」
- 外国人の多い飲食店: 「フォトスポット作って、SNS拡散で新規客獲得しませんか?」
さらに「組子細工は高額」という問題も解決できます:
- レンタル + 販売のハイブリッド: 旅館にレンタルで設置、気に入った外国人観光客には販売
- 販売手数料制: 旅館側は初期投資ゼロ、売れたら手数料収入
技術の価値は変わりません。でも「誰のお困り事を解決するか」を明確にするだけで、アプローチが具体的になります。
ステップ2:小さく始めて検証する
ドラッカーは『イノベーションと起業家精神』でこう言っています:
「イノベーションは小さく始めなければならない」
いきなり大きなビジネスを狙ってはいけません。まずは小さく始めて、本当に需要があるかを確認してください。
具体的には:
- まず3軒の旅館・料亭にレンタル提案してみる
- そこで実際に外国人観光客の反応を見てみる
- 1件でも販売につながったら、同じような場所に横展開
- 月10万円の売上が安定したら、次の戦略を考える
多くの起業希望者は「最初から全国展開の計画」を立てます。でもドラッカー的には、これは愚策です。
ステップ3:競合ではなく顧客を見る
最後に重要なのは、競合分析に時間をかけすぎないこと。
間違ったアプローチ:
「他の組子細工業者はどんな営業をしているかな?」
正しいアプローチ:
「犬山の旅館経営者は何で困っているかな?外国人観光客の満足度を上げるために何が必要かな?」
競合を見ても差別化のヒントは得られません。顧客を見れば、解決すべき問題が見えてきます。
技術ありきでも構いません。でも即座に「顧客のお困り事」にフォーカスを移せるかが勝負です。
まとめ:ドラッカーは起業を煽らない、現実を教えてくれる

今日の3つの勘違いを振り返る
起業希望者がよく陥る3つの勘違いパターンを見てきました。
- 「良い商品を作れば売れる」 → お困り事の解消こそがお金になる
- 「イノベーション=画期的な発明」 → 新しい満足を生み出せれば十分
- 「起業=自由」 → 24時間365日事業のことを考え続ける覚悟が必要
どれも、ドラッカーの理論を都合よく解釈した結果です。
ドラッカーの本当のメッセージ
ドラッカーは起業を煽るような甘いことは言いません。むしろ現実を冷静に見つめて、地に足の着いたビジネスを作ることの重要性を教えてくれます。
「企業の目的は顧客の創造である」
これは「素晴らしい商品を作れば顧客が生まれる」という意味ではありません。「顧客のお困り事を解決できれば、そこにビジネスが生まれる」という意味です。
「イノベーションとは新しい満足を生み出すこと」
これは「世界初の技術を発明しろ」という意味ではありません。「既存の組み合わせでも、顧客が今まで感じたことのない満足を提供できればそれがイノベーション」という意味です。
「自由には責任が伴う」
これは「起業すれば自由になれる」という意味ではありません。「自分で選んだ道なら、どんな不自由も受け入れる覚悟を持て」という意味です。
それでも起業したいあなたへ
ここまで読んで「それでも起業したい」と思うなら、あなたは本物かもしれません。
でも、まずは小さく始めてください。副業でも構いません。圧倒的な行動量を確保して、本当に顧客のお困り事を解決できるかテストしてください。
そして、自分の強みを顧客目線で客観視してください。実際にお金を払ってくれた人に「なぜ僕を選んだのか?」を聞いてみてください。
最後に、最悪のシナリオを想定してください。1年間売上ゼロでも続けられるか?家族に迷惑をかけても納得できるか?
この3つがクリアできるなら、起業をおすすめします。
なぜなら、起業家とは「自分で選んだ責任を背負って生きる人」だから。そして、それを「やりがい」と感じられる人だから。
次回予告
シリーズ第2回は「ドラッカーが起業希望者に言いたかったであろうこと」をお届けします。
今度は「何をやるか」より「何をやらないか」の重要性、市場ではなく顧客を見ることの意味、そして強みより弱みを知ることの大切さについて語ります。
起業の成功確率を上げたい方は、ぜひ次回もお読みください。
関連リンク: